市町村長・理事長に聞く

Interview

このコーナーでは、水土里ネット東京の会員である市町村長や土地改良区理事長に、
地域農業の現状や課題、今後の展望などについてお聞きします。

第1回

山下奉也八丈町長

内田常務理事

今日は第1回目の「市町村長・理事長に聞く」ということで、水土里ネット東京の山下会長に八丈町長のお立場から八丈町の農業振興についてお聞きしたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
まず、最近の八丈町の農業の状況についてお聞きかせいただければと思います。

水土里ネット東京の山下会長

山下町長

私は島の農業のあり方として、『自然の恵みを活かした一次産業』であることを大切にしています。
八丈町の農業産出額は約20億円で、そのうちフェニックス・ロべレニーなどの花き・観葉植物が8割を占めています。島の気候に合った作物なので、生産もずっと堅調に推移しています。
新型コロナが発生していたころは観光客が激減し、島の産業が大きなダメージを受けたのですが、そんな時に島の経済を支えてくれたのが農業や水産業でした。特に農業は、専業農家に加えて、商工業や観光など他産業との兼業農家も多く、担い手のすそ野が広いという点でも、改めて島の経済の根幹を支える産業であることを認識させられました。また、コロナ禍の巣ごもり需要で観葉鉢物などは比較的高値で取引されていました。令和4年度には切り葉の出荷が日本一という報告も受けています。
最近は「八丈フルーツレモン」が大変好評で、様々な加工品の商品開発も行われています。

山下町長へのインタビュー

内田常務理事

切り葉の出荷が日本一というのはすごいですね。八丈島ならではの島の気候に合った作物があるというのは強みですね。
一方で農業の抱える課題はどのようなことでしょうか。

水土里ネット東京の山下会長

山下町長

まず、これまで活躍してきた農業者が高齢化していますので、今後の町の農業を担う新たな担い手の確保・育成は大きな課題です。また、島特有の自然環境に応じた農地、農道、農業用水などの基盤整備は基本的な重要課題です。さらに、台風などの自然災害も多いため、その備えも大切です。
お話しした「切り葉生産日本一の島」についても、エンドユーザーにどのように伝えていくかアピールの仕方も課題です。花であればその名のとおり華があるので想像もできるのでしょうが、切り葉だと市場は知っていても、その先へ知らせる手段が限られてしまうので効果的なPRが求められます。

内田常務理事

担い手対策としては、どのような対策を講じていらっしゃるのでしょうか。

水土里ネット東京の山下会長

山下町長

町では、島内外の就農希望者を担い手として育成するため、平成20年度から「八丈町農業担い手育成研修センター」を開設しています。ここでは、農家や専門家から指導が受けられ、生産から販売までの実践的な研修が行われています。大事なのは、儲かる農業を見せてあげることだと思います。ハウスには、太陽光発電による温湿度の計測やビニールの自動開閉などDXも取り入れています。現在6名の研修生が学んでおり、これまでに10名が修了して島内で農地を借りて営農を開始しています。
また、意欲的農家に遊休農地を利用していただくため、農地の貸し借りも積極的に進めています。

フェニックス・ロベレニー切り葉の収穫作業

八丈町農業担い手育成研修センター

内田常務理事

町で新たに10名が就農したというのは、とても心強いですね。
水土里ネットとの関わりの深い農業基盤整備ですが、今後の方針をお聞かせください。

水土里ネット東京の山下会長

山下町長

島の農地は、防風林に囲まれた小規模な農地であったり、山の傾斜地であったりしますが、こうした農地にも農業用水を供給したり、軽トラが通れる程度の小規模な農道を整備したり、島の営農環境に合ったきめ細かな基盤整備がとても重要です。このため、国庫事業に加え、小規模なものは都の事業を活用し、さらに都の基準に満たないものは町単独事業で支援したいと考えます。また、老朽化した基盤施設もありますので、各地域で計画的に整備や改修をしていきたいと考えています。

内田常務理事

最後に、今後の農業振興のお考えについてお聞かせください。

水土里ネット東京の山下会長

山下町長

農業基盤の整備や担い手の確保育成に力を入れていくほか、八丈フルーツレモンやパッションフルーツなどの特産品のブランド化や加工品の開発、新たな販売ルートの開拓などにより、儲かる農業にチャレンジすることが大切だと思います。
また、観光客や学校給食向けに季節の特産品を生産して島で消費するサイクルを作り、農業が他分野ともコラボし貢献していくことも重要です。
こうした将来の農業に向けた農業者の創意工夫や発想を、町は応援していきたいと思っています。

内田常務理事

農業が他分野と連携することで、町全体の活力の創出につながってくるのですね。
今日はお忙しい中、ありがとうございました。

八丈フルーツレモンの施設栽培

たわわに実ったパッションフルーツ

※2024年6月10日に八丈町役場町長室でインタビュー、聞き手は水土里ネット東京 内田常務理事